「最初の急変」(10月14日〜19日)



10月14日(火)






   朝7時前、会社へ向かう途中、母から連絡が入った。
   「今、病院から連絡が入って、すぐに来て欲しいって。お母さんも先に行ってるから。」
   とのことだった。

   病院に到着すると、(父の処置をしてくれた看護師の)I藤さんが状況を説明してくれた。
   「今朝、Kさん(父のこと)が前の患者さんのベッドに座ったままで様子が変だったので、
   こちらの判断で個室(463号)に移しました。」とのことだった。

   「え?だって昨日までは普通に話していたのに・・・?一体何が起きたんだ・・・」

   昨日までと同じように、「お父さん、おはよう。」と声を掛けてみたが、はっきりとした返事は
   返ってこない。 何かボーッとしている様子だった。

   前日の帰り際に母が何気なく呟いた、「パパを一人にするの、ちょっと心配だなぁ・・・」
   という言葉が私の頭の中を駆け巡っていた・・・。

   父の様子が普通でないことは、素人の私でもすぐに分かったので、会社に連絡して
   この日は休ませてもらうことにした。

   30分ほど後で、妹も到着した。父の様子を見ていた(元看護婦の)妹によると、
   「たぶん、『肝性脳症』だと思う。『羽ばたき震戦』も出ているし。」とのことだった。

   『肝性脳症』というのは肝硬変特有の症状で(病状が進行して)血中アンモニア濃度が
   高くなると、意識が朦朧としてくるそうだ。 また、『羽ばたき震戦』というのは文字通り、
   腕が羽ばたくように震える動きをするもので、これも肝硬変が悪化すると出てくる症状だそうだ。

   後にその日の血液データを見せてもらったが、腎機能を示す(クレアチニンなどの)数値が
   それまでと比較して急激に高くなっていた。


   しばらくすると、父が「トイレに行きたい。」と言ったので、家族3人で父を介抱しながら
   連れて行った。

   やっとのことでトイレを済ませた後、病室に戻ろうとするのだが、体全体が物凄く重そうで、
   どうやっても立ち上がることが出来ない。

   見ていてかわいそうなくらいだったが、それでも必死で頑張っている父の姿を見て、
   私たちは、「お父さん、がんばって!」と何度も何度も励まして、何とか病室に戻れたのは
   1時間以上経った後だった。

   担当看護師のR反さんにそれまでの状況を説明すると、「バルーンを入れましょう。」
   と即決してくれた。

   ただ、心配だったのが管の挿入時に相当な痛みを伴う、ということだった。
   それと、もう一つ心配だったのが、父が以前 「トイレには自分で行けるから
   あんな管の助けなんか必要ない。」と言っていたことだった。

   しかしながら、R反さんの的確な処置と、父の意識が(その時点では)はっきりしていなかった
   こともあって、比較的スムーズにバルーンを挿入することが出来た。

   これでもう、とりあえずトイレに行くための苦労はなくなったが、もう自分の力でトイレに
   行くことは出来なくなってしまった、ということでもあった。

   ただ、本人は体力を落としたくない(=退院したら会社や旅行に行くと言っていた)
   という思いで、それまで頑張ってきたはずだ。
   意識がはっきりと戻ったときに、どうやって父にその事実を話せば良いのだろうか・・・。


   主治医のA山先生に肝性脳症を改善する薬(=アンコーマ)の点滴をしてもらってから、
   しばらくすると落ち着いてきた様子だったが、この日、起こった現実を目の当たりにした
   私たち家族は(今の父の状態からするとある意味、当然ともいえる)『ある決断』をした。

   母はその日から病室に泊まりこみで父の看病をすることに、そして、私(と妹)も
   今後はできる限り父と一緒に過ごしていこう、と・・・。



   〔肝性脳症=血中アンモニア濃度上昇によって起こる、意識障害を主とした精神神経症状を
    きたす病態。〕

   〔クレアチニン(CREA)=腎臓の機能を見る際に必要な検査データ。〕
   〔「バルーン」=膀胱に管を入れて尿を出すこと。〕


この日、私が付き添っていた時間(以下、同じ)

(7:00〜20:00)







10月15日(水)




   この日より、家族が交代で付き添っているときに、父の病室内での手記を書き始めていた。

   〜ここからは元看護師の母と妹の手記が中心となっているため、所々で専門用語(による表現)
   が含まれることをご了承下さい〜




(母の手記より)  0:00〜9:30


0:00  タール便。

3:00  終始、浅眠状態が続く。

5:00  仰臥位になり、痰や唾を介助して取り、さすっていたら安心したのか、
     寝息を立てて6時ごろまで約一時間、良く眠る。
     昨朝、バルーン挿入後から21時までの尿量500ml、その後、今朝6時過ぎまで400ml。

8:00  KT(体温)37.0℃、P(脈拍)88。 鼻血は深夜過ぎより止まっている。

8:25  アンコーマ2A(アンプル)入り点滴(10:00〜16:00)、接続す。


    
〔タール便=血液が混ざった便のこと。〕
    
〔仰臥位(ぎょうがいい)=あおむけの状態。〕


    
9時30分頃、母から妹へ付き添い交代。



(妹の手記より)  9:30〜16:15


9:45   悪寒軽度あり。 クーリングせず、様子を見る。

10:10  KT36.3℃↓。 唾液は少なめ。

10:30  右側臥位をとり、浅い眠りに入る。スースー。

11:30  KT37.1℃。氷枕す。 暑いのか寒いのか、はっきりしない状態だという。
     「頭のパーツがいかれてる。」

13:15  KT37.1℃。起座位(きざい)をとり、含嗽(がんそう)する。
     腹部正中あたりに、しぼられる様な痛みがある、という。

13:40  仰臥位に戻ると、徐々に痛み消失す。 鼻出血(-)、Kot(=便のこと)(-)。

14:30  ラシックス1A iv

16:15  (点滴交換)アミノレバン200ml



      〔クーリング=発熱している患者さんの体を氷枕などで冷やすこと。〕
      〔起座位(きざい)=ベッド上に起き上がって座っている状態〕
      〔含嗽(がんそう)=うがいのこと。〕
      〔ラシックス=利尿剤〕
      〔iv=静脈内に少量の薬液を一気に注入すること。〕

    
  〔アミノレバン=肝性脳症を伴う慢性肝不全患者の栄養状態を改善するための薬〕


16:30  (妹の義父母の)Oさん、(取引先である、Iの)K社長と事務の方が見舞いに来る。


(再び母の手記より)


19:00  ブドウ糖500ml、アドナ1A、トランサミン1A、交換。

20:00  B.P.(血圧)130/60、KT37.1℃。唾液に少量、血が混じっている。

21:00  尿量900ml。氷枕交換。

      〔アドナ、トランサミン=止血剤〕

(14:00〜19:20)




10月16日(木)



2:00  点滴交換(ブドウ糖500ml、強ミノ)。 KT36.9℃。

3:00  タール便、少量ずつ。 腹部膨満(++)。
     「だんだん悪くなる感じ。おかしい。後、2〜3年は生きたい。」などと言う・・・。

3:30  尿量280ml位。 左足先が、瞬間的につる感じ時々あり。仰臥位になる。

4:45  右仰臥位になる。 この時点までほとんど眠っていない。

4:55  軽い寝息を立てて眠るが、10分位で起きる。 R(呼吸)16、P(脈拍)80。

6:00  尿量300ml。 点滴の滴下数少なく、早めに調整してもらう。 KT36.5℃。氷枕取りかえ。

7:45  軽い寝息。


     〔強ミノ=強力ネオミノファーゲンCのこと。肝硬変の治療によく使われている薬。〕
     〔(++)=ツープラス。+(ワンプラス)から+++(スリープラス)までの3段階があり、++は
     中程度の状態を指す。〕



9:00   タール便少量。 清拭(せいしき)、衣類交換。

10:00  点滴交換(10%Tz500ml、アンコーマ2A)。

11:00  30〜40分寝息を立てて眠る。 水少々飲むも受け付けず、含嗽。

     
〔清拭=体を拭くこと〕
      〔10%Tz=10%ブドウ糖液〕


14:30  この日、担当のM川看護師と談笑。 九州のグルメなどの話で盛り上がる。
     (ちなみに長崎のカステラで一番美味しいのは「こうもりマークのふく○い屋」だそうです。)

18:30  A山Dr来室。軽く診察。 本人大いに満足、安心した様子。

20:00  浅眠(せんみん)。 口渇(++)。(I藤看護師さんに依頼してあった)加湿器を使い始めて、
      だいぶ楽になる。 尿量500ml、KT37.2℃。


(14:30〜19:10)




10月17日(金)



2:00   点滴交換(ポタコールR500ml、強ミノ60ml)。
     (0:00過ぎから3h位眠る。点滴交換気付かず、3:40に目覚める。)

6:00   尿量500ml(尿廃棄)。 KT37.0℃。昨日朝のまま便(-)。 氷枕交換。鼻血もなし。
     「水が飲みたい。」と薄めのマウスウオッシュ液でうがいし、2口くらい飲むが、少し置いて
     吐き気あり。 「できるだけ我慢。」と言うが、唾液と共に吐く。

9:00   シーツ交換。 加湿器作動す。

10:15  点滴交換(10%TZ500ml、アンコーマ2A)。

10:50  尿量200ml。 左側臥位。背中に枕はさむ。

11:00  眠る。R(呼吸)15。

11:40  目覚める。

12:00  タール便少量。 おむつ交換&清拭。

13:00  KT36.7℃。


      〔ポタコールR=糖質及び電解質輸液〕



19:00  点滴交換(10%TZ500ml、アドナ1A、トランサミン1A)。

20:00  KT37.0℃。 クーリング交換。Ha(尿量)600ml。

20:25  嘔気と共にガーレ状(水溶性)嘔吐。 倦怠感持続。

21:00  BP(血圧)104/64。



     
〔嘔気(おうき)=吐気〕
     
〔ガーレ=胆汁〕

(12:30〜19:00)



10月18日(土)



0:00   タール便中程度。 尿量700ml(廃棄する)。 「便が出てすっきりして眠れそう(と父)。」
      出血(-)だが、唾液が頻繁に口に溜まり、眠れない様子。

2:30   点滴交換(ポタノール500ml、強ミノ60ml)。

3:20   嘔気あり。ガーレ吐く。 水枕交換。「気持ち良い(と父)。」

3:55   少しウトウトし始める。「6時間くらいゆっくり眠りたいなぁ(と父)。」 尿量約100ml。P(脈拍)90。


5:00   目覚める。 嘔気軽度、唾液状のみ。 タール便極少量、おむつ交換。

6:00   尿量約200ml(廃棄す)。

6:30   マウスウオッシュで含嗽後、うとうと。

7:07   BP134/70、KT36.6℃。

7:30   氷枕の水漏れのため、上半身衣類交換。

9:00   点滴交換(10%TZ500ml、アンコーマ2A)。 ラシックス側注。 尿量約100ml。BP122/68。

10:00  尿量約200ml。

11:00  尿量約300ml。

12:40  尿量約400ml。タール便(+)。


    
 〔側注=側管注射のこと。メインの点滴の管から分岐している管に入れる点滴。〕


14:00  ベッド交換&着替え。少量ずつ何度か飲水する。吐気&嘔吐なし。

14:30  BP132/74、KT36.7℃。


15:30  (この後、私にどうしても外せない約束があったため、妹たちに後を頼んで病室を後にする。)

16:00  Ha500ml。 日中、ゴルフ(TV)を見て、少し満足げな様子。その後、ウトウトし始める。

      〔Ha=ハルン。尿のこと。〕


16:30  会社のS井氏、東京より(父の)妹夫婦と三女が見舞いに来る。。
      体調不良なれど、一生懸命相手をしている。

17:30  妹夫婦とS井氏が帰る。
      直後、(会社の部下である)F沢氏の奥さんが子供を連れて見舞いに来る。
      少し話したが、途中より眠る。

18:40  尿量600ml。



19:15  飲水後、嘔気あり。 少量もどす。

19:30  BP146/78、KT37.2℃。

19:50  点滴交換(10%TZ500ml、アドナ1A、トランサミン1A)。 クーリング交換。 Ha600ml廃棄す。

21:10  タール便中等量(+)。バルーン挿入部より尿漏れ少量あり。
      Ns(ナース)に報告。 固定液OK、とのこと。 尿パットあてがい尿漏れ確認、とのこと。

21:20  突如、嘔気と共にガーレ状嘔吐(50ml位?)。

22:00  氷2ケ口に含むも嘔気。 嘔吐(-)。


(7:00〜8:30/13:00〜15:30)



10月19日(日)



0:30  「少し眠った気がする(と本人)。」排便少量。 所々黄色味帯びた胆汁状。
     パットに尿漏れ少し。 オムツ交換、小のみ替える。 嘔気(-)、嘔吐(-)。

3:30  排便少量。 交換後、眠る。

5:30  覚醒。 「昨夜は久しぶりに眠れた。」と言う。 熱感(+)、KT37.1℃。 氷枕交換。

6:30  髭剃りを自分でする。 顔、手足清拭。KT36.7℃。



13:00  BP122/70、KT36.9℃。

14:00  タール便中等量(+)、尿漏れ(-)。

15:00  30〜40分ほど眠る。

16:00  Ha400ml。

16:30  点滴交換(アミノレバン200ml)。

16:40  氷片1かけら食べる。

18:00  M野さんが見舞いに来る。



19:00  BP128/62、KT37.3℃。 尿量500ml。氷枕交換。

20:40  タール便中等量。 尿漏れ(-)。

22:00  氷片1ケ食べる。 吐気、嘔吐(-)。


(10:30〜19:00)


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